八甲田山の風力発電事業((仮称)みちのく風力発電事業)を巡る林野庁との直接的な交渉や位置づけは、主に計画地がほぼ全て「保安林」や「保護林」に指定されていたことによる法的な規制手続きと、市民団体や全国組織による規制強化の要望活動という2つの側面から進められました。
計画が撤回に至るまでの林野庁に関連する経緯と論点は以下の通りです。
1. 計画地における保安林・保護林のハードル
事業者が開発を進める上で、林野庁の管轄する以下の規制が大きな障壁となりました。
* ほぼ全域が保安林指定: 計画区域(約17,300ヘクタール)のほぼ全てが、水源涵養や土砂災害防止を目的とする保安林に該当していました。風車設置や巨大な資材を運ぶための道路建設には、林野庁(および都道府県)による「保安林解除」の許可が必須ですが、民間事業の公益性が保安林の持つ公益性を上回るかどうかが厳しく問われました。
* 国有林と保護林の存在: 東北森林管理局(林野庁の地方支分部局)が管理する国有林内には、「八甲田山森林生物遺伝資源保存林」などの保護林や、野生動植物の移動経路となる「緑の回廊」が含まれており、開発による地形改変が認められにくい状況にありました。
2. 環境省・林野庁への「網の目」をめぐる交渉と指摘
アセスメント(環境影響評価)の段階から、林野庁が定めた基準をベースに厳しい指摘が入りました。
* 環境大臣意見での引用: 環境省が提出した大臣意見において、林野庁の「山地災害危険地区調査要領」に基づき、計画地が山腹崩壊危険地区などに該当することが明確に指摘されました。尾根沿いの広大な森林伐採や道路開発が災害リスクを著しく高めるとして、計画の抜本的な見直し(結果としての南側エリアの除外や基数半減)を迫られる法的な根拠となりました。
3. 市民団体・連絡会による林野庁への要望書提出
事業の撤回前後、およびその後の再発防止に向けて、住民や環境団体が林野庁へ直接交渉・要望を行っています。
* 「潜脱的行為」への規制強化要望: [全国再エネ問題連絡会]などの市民団体は林野庁に対し、「本来は厳格な審査が必要な『保安林解除』を経ずに、一時的な『保安林内作業許可』の手続きだけで風力発電の管理用道路を先行建設させてしまう現行運用の是正」を求める要望書を提出しました。
* 法規制の隙間を埋める交渉: 八甲田山の事例をきっかけに、「道路改変が保安林審査の対象から外れるのは制度の趣旨に反する」として、林野庁に対して全国的な陸上風力発電への規制強化を直接働きかける運動へと発展しました。
このように、林野庁との関係においては、事業者が「保安林解除のハードルを越えられない」と判断したこと、そして市民側が「保安林制度を正しく適用して乱開発を止めるよう林野庁に要望したこと」が計画撤回への強い牽制となりました。
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